「ごきげんな裏階段」(佐藤多佳子)①

この本こそ、読書指導の出発点だ!

「ごきげんな裏階段」(佐藤多佳子)
 新潮文庫

「ごきげんな裏階段」新潮文庫

陽も当たらず湿った
アパートの裏階段。
そこにはタマネギねこ、
笛吹きグモ、
煙のモクーといった
秘密の生き物たちが隠れ住む。
好奇心いっぱいの子どもたちは、
奇妙な生き物たちを見逃さず、
どうしても友だちに
なろうとするが…。

中学生への読書指導の大切さを
痛感しています。
読書指導は「この本を読め!」と言って
名作を提示して
終わるようなものではありません。
今時の中学生に
夏目漱石「こころ」
読ませようとしても、
読み進めること自体が難しいでしょう。

教育活動は何事もそうですが、
目指すべきゴールを示し、
そのゴールまでの道筋を
明らかにすることが大切だと考えます。

中学生の発達段階を考慮した
読書活動の到達点
(身に付けさせたい読書力)はどこか?
私は次のように考えます。

①夏目漱石や島崎藤村など、
 明治の文豪の主要作品を
 読み味わうだけの読解力

②小説にとどまらず、
 評論・随筆、戯曲、詩、
 短歌・俳句等、
 幅広い分野への興味・関心

岩波新書
 講談社現代新書等の新書のうち、
 難解でないものを
 読んで理解できるだけの読解力

小難しいことを並べてみましたが、
さて、そのゴールに向かう
スタートはどこか?
私は現代作家の書いた「児童文学」こそ
中学生の読書活動の出発点だと
確信しています。

佐藤多佳子の「ごきげんな裏階段」。
それにふさわしい本の一つです。

3話オムニバス的な連作ファンタジー。
それぞれに
「タマネギ猫」「笛吹き蜘蛛」「煙男」という
陽気なモンスターが登場。
小学生の兄妹とその家族、
そしてアパートの住人との
爽やかな関係が描かれていきます。

多くの児童向け作品では、
モンスターは
子どもたちにだけ見えて、
大人には見えません。
しかしこのアパートの
裏階段のお化けたちは
大人にもしっかり見えるのです。
子どもと大人が
不思議を共有しています。
お化けを介しての、
子どもと大人の一体感。
それがこの作品の魅力です。

何か面白い本ないかな?と言う
中学校1年生がいたら、
私たち大人は
自信を持って薦めましょう。
「こんな本、どうだい」と。

(2018.12.11)

image

【佐藤多佳子の作品はいかがですか】

created by Rinker
¥693 (2024/05/18 22:38:24時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA